ホテル・旅館のDX推進!ツール導入・デジタル化の事例や手順を解説
ホテル・旅館のDX推進!ツール導入・デジタル化の事例や手順を解説
DX(デジタルトランスフォーメーション)による業務の見直しは、これからの宿泊施設運営にとって喫緊の課題です。
新型コロナウイルス感染症の影響によって、ここ数年の売り上げを大きく落とした宿泊業界では現在、急激なインバウンド需要で人手不足に陥っています。この節目にこそ、本当のDXによる業務改革が必要です。
本記事では、宿泊業界の現状と、現状の課題を解決するためにDXが役立つ理由のほか、実際のDX事例などを詳しく紹介しています。
ホテル・旅館のDXとは?デジタル化やIoT化との違いは?
DXとは、デジタル技術によって顧客サービスや業務など、企業文化を根本から改革することです。業務効率化によって、今までよりも質の高いサービスを顧客へ提供できるようになります。DXはデジタル技術の導入だけでなく、業務そのものの見直しや働き方改革、顧客との接点の見直しも含まれます。
DXと似た言葉として、デジタル化やIoT(インターネット・オブ・シングス)を思い浮かべる方もいるでしょう。デジタル化やIoTはDXの手段の一つにすぎず、DXと同列で語るものではありません。DX推進のためのデジタル化やIoTを駆使する、というイメージです。
デジタル化には、業務効率化やペーパレスという改善ポイントがあります。IoTは、画像データを使った混雑状況の可視化やスマホを使った室内コントロールなど、省人化に力を発揮します。
デジタル化やIoTを含め、DXについての詳しい知識を身につけましょう。
他業界に比べて宿泊業界のDXは遅れている?
経済産業省がまとめた産業別俯瞰図によれば、宿泊業が属する第一産業群の企業がDXに取り組んでいる割合は、20%程度とされています。他の業界に比べて遅れているのは目に見えて明らかです。
ホテルのチェックインやチェックアウトのプロセスは、いまだアナログで属人化しています。デジタル化できるところとそうでないところが混在していることもあり、切り分け出来ていないのが現状です。今一つDX化に踏み切れない背景には、DX化の費用対効果が分かりづらいという点があります。
日本の美徳とされるアナログなおもてなし文化も、DX化を阻害する要因の一つです。しかし、人手不足が深刻な宿泊業界のDX化は、成功するとかなりの恩恵をもたらします。うまくDX化が進まない現状では、大きな損害を被っていると言っても過言ではありません。
ホテル・旅館でDXが必要な理由
ホテルや旅館など宿泊業界ではなぜDX化が求められているのでしょうか。その理由を4つ紹介します。
- デジタルディスラプションの影響
- コロナ禍のニーズ変化
- インバウンド需要の回復
- 人手不足の解消
デジタルディスラプションの影響
デジタルディスラプションとは、新しいデジタルテクノロジーによって既存の商品やサービスの価値が変わってしまうことを言います。急激な価値の変化によって既存の市場が破壊され、新たな市場が出来上がることもよくあります。
宿泊業のデジタルディスラプションの代表例は、店舗を持たずに旅行業を展開する企業の登場や、インターネットを活用した民泊などが挙げられます。旧態依然の宿泊サービスを提供する企業や事業者は価格競争に太刀打ちできなくなり、廃業に追い込まれてしまいます。市場競争力をつけるためにも、宿泊業のDX化は喫緊の課題です。
コロナ禍のニーズ変化
コロナ禍を経て顧客のニーズに変化が現れました。アフターコロナで新たにニーズが高まったものは、オンライン予約やチェックイン時の対人折衝の簡略化です。最初は、コロナウイルス予防のための非接触が目的でしたが、人とのやり取りが少ない方がスムーズに手続きが進むことが分かりました。
今では、基本的な手続きはオートマチックに済ませることが当たり前になりつつあります。DX化に遅れをとってしまうとコンタクトレスの流れに乗り遅れてしまい、差別化に勝てなくなってしまうでしょう。
インバウンド需要の回復
コロナ禍が落ち着きを見せ始め、出入国の規制は撤廃されました。あらゆる制限によって甚大なダメージを被った観光業と宿泊業は、マイナス分を少しでも取り返さなければいけません。
外国人観光客のリピートを獲得するためには、災害時や病気時の対応など、顧客満足度向上への徹底した取り組みが必要です。特に言語の壁をクリアするためのDX化は、顧客満足度向上のためには欠かせない施策です。
人手不足の解消
以前から慢性的な人手不足に悩まされてきた宿泊業界ですが、現在では少子化がさらに追い討ちをかけています。少子化が止まらない現状を考えると、働き手不足は今後より深刻さを増していくでしょう。
DX化による業務の自動化や省人化は、避けては通れない道です。今まで特に考えることなく人に依存してきた業務も、DX化することで自動化や省人化になる可能性を検討する必要があります。何も対応せずにいると、やがては運営に深刻な影響を及ぼすでしょう。
ホテル・旅館でDXを推進するメリット
ホテルや旅館などの宿泊業界にてDXを推進すると、どのようなメリットが得られるのでしょうか。
考えられる6つのメリットを紹介します。
- 新しいニーズへの対応
- データ活用
- 顧客体験の向上
- 業務効率化や人件費削減
- ヒューマンエラーの防止
- 労働環境の改善
新しいニーズへの対応
顧客の新しいニーズの代表として挙げられるものが、非接触化です。あらゆるポイントの非接触化を実現できれば、顧客の衛生意識向上に対応できるだけでなく、人を介さないスムーズな手続きまで実現できます。元々はコロナ対策として始まった非接触対応ですが、今ではスムーズな手続きに欠かせないものになっています。
時代の変化と共に顧客のニーズも変わっていきます。非接触化以外にも、新しいニーズへの対応速度は、新しい時代を勝ち抜くための大切な要素です。
データ活用
データの活用は、ホテル運営の重要なカギを握ります。客室の稼働率やホテルを利用している客層の分析、分析データに基づいた価格戦略の策定など、データ分析と活用はホテル運営にとって大きな力となるでしょう。データ分析によって、よりターゲットに沿ったピンポイントなサービスが提供できれば、差別化と競争力アップに効果的です。
顧客体験の向上
顧客体験の向上は短期的な売り上げだけでなく、長い目で見た売り上げアップにも効果が期待できます。
DX化が滞りなく進めば、チェックイン・チェックアウトの忙しい時間帯にユーザーを待たせることなく、スムーズな案内ができるようになります。ミスの減少によって待たせることも少なくなるため、総合的な顧客満足度にも良い効果が現れるでしょう。
リピートユーザーの誕生日情報に基づいたサプライズ、好む食事の提供など、ピンポイントなサービスの提供ができるのもDX化がもたらす恩恵です。
業務効率化や人件費削減
コロナ禍によって被ったダメージを回復するために、少人数によるホテル運営を余儀なくされています。人手不足という課題の解決と業務の効率化を両立させるには、DX化は避けては通れない喫緊の課題です。
DX化によって実現可能な省人化の具体例は、アプリによる観光スポットの案内・道案内・清掃ロボットの活用・配膳管理システムなどが挙げられます。DX化がうまく進めば、業務効率化と人件費の削減という課題が解決できるでしょう。
ヒューマンエラーの防止
DX化によって今まで人の手で起きていたエラーを大幅に減らすことができます。具体的には、人が介在することで発生する受付時の入力ミスなどが挙げられます。DX化が実現できれば、受付担当の人員をおく必要はありません。
AIカメラやIoT技術による遠隔保守システムの導入も検討すると良いでしょう。人為的ミスの事故を防げるだけでなく、宿泊施設そのものの安全確保にも役立ちます。
労働環境の改善
宿泊業界は不規則な勤務体系や理不尽なクレームなど、決して労働環境が良い仕事とは言えません。現状では他の業界よりも離職率が高いのは致し方ないことです。
しかし、DX化によって適切な省人化が実現できれば、不規則な勤務体系を改善できる見込みがあります。また、オンラインマニュアルを整備して業務への不安感を解消したり、スタッフ同士で気軽に利用できるコミュニケーションツールを導入することも効果的です。スタッフ間の連携を強くするなど、DX化は、あらゆる面で労働環境の改善に役立てることが可能です。
DX推進の対象となるホテル・旅館の業務
ホテルの業務でDX化を進めやすい業務は、大きく分けて次の4つです。
- 宿泊予約の受付と管理
- 顧客対応
- 施設管理と清掃
- スタッフの育成と管理
現時点で宿泊予約と顧客管理を電話と紙で対応している場合、宿泊予約システムやPMS(予約管理システム)を導入するだけでDX化を進められます。すでに解説したように、省人化やヒューマンエラー防止など大きな効果が期待できるため、検討してみる余地は十分あります。
チェックイン・チェックアウトだけでなく、観光案内もDX化の対象です。観光案内には、AIチャットボットや観光客向けのタブレットを導入するなどの方法が考えられます。いつでも対応できるのはAIならではの強みです。
施設管理などの業務では、清掃ロボットの導入も効果的です。またスタッフ育成や管理では、育成プログラムを組み込んだオンラインマニュアルや、一元化された勤怠管理システムが活躍します。
ホテル・旅館のDX推進事例
DX化によって効果が見られる導入事例を7つ紹介します。
- 清掃・配膳ロボットの導入
- チェックイン・チェックアウトの自動化
- ホテル管理システム(PMS)の導入
- AIチャットボットの導入
- レベニューマネジメントシステムの導入
- 人感センサーの設置
清掃・配膳ロボットの導入
清掃・配膳ロボットの導入がスムーズに進めば、人手不足の解消と効率化を同時に実現できます。配膳ロボットはコロナ禍の非接触需要に基づいて導入される機会が増えており、一部の飲食チェーン店では配膳ロボットが活躍するシーンも多く見られるようになりました。
チェックイン・チェックアウトの自動化
スマートチェックイン・チェックアウトは徐々に広がりを見せ、導入しているホテルも多くなりました。スマートチェックイン・チェックアウトなら、会計のためにフロントが混み合う状態を避けられます。顧客需要に応えるだけでなく、受付の無人化は人手不足解消や人件費削減にも大きく貢献します。多言語システムにも対応するため、多言語対策として新たに人を雇う必要もありません。
ホテル管理システム(PMS)の導入
PMSはProperty Management System(プロパティ・マネジメント・システム)の略語です。ホテルや旅館が客室管理を行う際に利用するホテルシステムのことを言います。
ネット予約が主流になりつつある昨今では、処理の自動化による効率アップと同時に、入力ミスのトラブル予防にも取り組む必要があります。PMSは、これらの細かい雑用をすべて引き受けてくれるシステムです。営業状況の分析や予約状況・ハウスキーピングの帳票・食事の手配表など、これまでアナログポイントだった業務の多くは効率化に向かっています。
AIチャットボットの導入
AIチャットボットを導入すると、顧客の疑問を即座に解消することができます。チェックインやチェックアウトの時間・観光イベント情報・ホテルまでのアクセス・予約確認など、顧客からの質問にAIチャットボットが回答してくれます。
レベニューマネジメントシステムの導入
レベニューマネジメントとは、将来の需要を予測して最良価格を設定し、収益を最大化するホテル運営のことを言います。繁忙期と閑散期がダイナミックに変動する宿泊業では、欠かせない手段と言っても過言ではありません。
レベニューマネジメントシステムを導入することで、過去の実績や顧客情報といった様々なデータから需要予測ができるため、業務効率化や属人化解消につながります。
人感センサーの設置
人感センサーは、IoTを活用してスマートホテルを目指すためには欠かせない設備です。
例えば、利用客の多少に関わらず、2時間おきに浴室の清掃とタオル交換を行っていたホテルや旅館での場合です。人感センサーを設置したことで、利用客が10人出入りした時点で清掃や交換に向かうなど、フレキシブルな運用ができるようになりました。
また、玄関口などに宿泊客の到着を知らせる人感センサーを設置していれば、最高のタイミングでお出迎えすることも可能です。
ホテル・旅館でDXを進める手順
具体的にホテルや旅館でDXを進める手順を、4つのポイントに絞り解説します。
- DXを行う業務を決める
- DXツールやシステムを導入する
- 従業員の研修を行う
- 導入後の評価と改善を行う
DXを行う業務を決める
ホテル業務の中でボトルネックとなっているポイントを洗い出し、DX化の優先順位を考えます。
一般的に宿泊業でDX化するポイントは次の通りです。
- 紙を使った予約管理
- 人の手で行う清掃
- 物理的なスマートキーからの脱却
- スタッフの教育
現在の業務プロセスから課題を見つけ出し、優先度の高いものから順に対応していくと効果を実感しやすいです。一気にDX化を進めると逆に効果が得られないこともあるため、慎重に進めるようにしましょう。
DXツールやシステムを導入する
ツールの導入は、ホテルの業務に合うものを選びましょう。数多くのDXツールがリリースされていますが、全てがマッチするわけではありません。事業規模に合うツールを選ぶべきです。
またツールを検討するときは、一社のみで決めるのではなく、複数社のツールを同時に検討しましょう。費用だけでなくサポート面も大事なポイントです。
従業員の研修を行う
実際に現場でツールを使う従業員に向けた教育も大切です。急な変更によって戸惑う従業員には、使い方だけでなく効果のほども伝えることで、より前向きに取り組んでくれるでしょう。
従業員の協力を得ることは、業務効率上とても重要です。研修の中で従業員からの要望があれば積極的にヒアリングするようにしましょう。
導入後の評価と改善を行う
DX化の導入をスタートした後は、成果や課題などデータを蓄積していき、更なるDX化の拡大を検討しましょう。うまくいった事の一方で、ほかに課題が顕在化することも想定されます。課題については、次のDX化までに解消しておきたいところです。宿泊客からのフィードバックも改善に役立てましょう。
うまくいった点はもし可能であれば、他の業務プロセスやビジネスへの転用もできないか考えてみましょう。
ホテル・旅館のDXで起こる課題
DX化を推進するにあたり、導入段階やそれ以前において多少の課題が出てくることが想定されます。もし課題が明らかになったら早急に対応しましょう。
想定される課題を4つ紹介します。
- 現場の理解や協力を得られない
- ツールやシステムの導入で終わる
- 顧客満足度が落ちる
- 導入にかかる初期費用を用意できない
現場の理解や協力を得られない
アナログな業務を長く続けてきた現場では、高い確率で現場スタッフからの反発があります。導入当初に反発が出ることは致し方ありません。DX化の意味と将来にわたる効果をしっかり説明できれば、やがては理解してくれるようになります。より理解を深めてほしいときは、経営トップが直接現場で説明を行うことも検討したいところです。
ツールやシステムの導入で終わる
DX化のためのツールをとりあえずは導入したものの、その後どう進めて良いか分からずにおざなりになってしまうケースです。DXツールの導入で満足して終わってしまうのは避けたいところです。導入したツールがどのような変化をもたらしたのか、効果測定を行い新たなDX化の計画に繋げましょう。
顧客満足度が落ちる
効率化の追求を急ぎすぎると、顧客から不満が出てくる可能性があります。特に今までのスタイルに馴染んでいた常連客は、不満に感じる人も多く出てくるかもしれません。DXは業務効率化だけが目的ではありません。最終的には顧客満足度の向上に繋げることが目的です。DX化を推進しつつ顧客満足度を維持するには、顧客体験を向上させるものを積極的に導入しましょう。
導入にかかる初期費用を用意できない
DX化を推進するには、思いのほか費用がかかります。中には予想外に費用がかかるため、DX化を断念しようとする宿泊施設もあるほどです。初期費用と、DX化がうまくいった時の費用対効果はよく検討しておきましょう。効果が得られるのであれば、多少の投資も検討する価値があります。ツールによっては補助金が出るものもあります。DX化の流れに乗ってうまく導入を進めましょう。
DX推進でホテル業務の効率化を目指そう
宿泊業界のDX化推進は、あらゆる業務においての効果が期待できます。働き手不足の解消や顧客ニーズへのきめ細かな対応・データ活用によるサービスの最適化・新たな顧客体験の提供など、効率化だけでなく顧客獲得の機会をも作り出します。
DX化の過程で推測される課題は、現場スタッフの反発や導入の未消化です。推進が思うように進まずに、ツール導入のみに終わることなどが考えられます。起こりうる課題を乗り越えDX化を推進するには、技術的な側面だけでなく組織全体の変革が必要です。
※掲載されている内容は更新日時点の情報となります。