宿泊業界・ホテル 業界の離職率が高い原因は?人材不足改善につながる対策ポイント
宿泊業界・ホテル業界の離職率が高い原因は?
人材不足改善につながる対策ポイント
数ある業種の中でも特に離職率が高いことで知られるホテル業界。
せっかく時間とコストをかけて新卒社員を採用しても、その多くがすぐに辞めてしまうケースも珍しくありません。離職率が高いと人材育成がうまくいかず、生産性や企業の競争力が低下する恐れがあるため早急な対処が必要です。今回は、ホテルの離職率が高い原因と離職率の改善に効果的と思われる対策方法について紹介します。
宿泊業界・ホテル業界の離職率は高い
宿泊業界やホテル業界の離職率は、一般的な企業離職率より高いと言えます。令和4年 雇用動向調査結果(厚生労働省)を見ると、全体の離職率15.0%に対して、宿泊業・飲食サービス業は26.8%となっています。
業界 | 離職率 |
---|---|
宿泊業・飲食サービス業 | 26.8% |
その他サービス業 | 19.4% |
生活関連サービス業 | 18.7% |
医療・福祉 | 15.3% |
運輸業・郵便業 | 12.3% |
情報通信業 | 11.9% |
電気・ガス・熱供給・水道業 | 10.7% |
製造業 | 10.2% |
建設業 | 10.5% |
金融業・保険業 | 8.3% |
宿泊業界・ホテル業界の離職率が高い原因
宿泊業界、ホテル業界の離職率が高いことには明確な理由があります。宿泊業界、ホテル業界はサービス業の中でも24時間営業で年中無休となるケースが多く、ほかの業種より勤務者の負担が大きいです。
そこで、宿泊業界・ホテル業界の離職率が高い原因を4つチェックしていきましょう。
長時間労働が多い・勤務形態が不規則になっている
前述したように、宿泊業界・ホテル業界は24時間365日営業が基本です。
もちろん従業員でシフトを組み、時間、役割分担をしますが、それでも一人ひとりの労働時間が長くなる傾向にあります。サービス業の中でも営業が10:00~21:00の11時間なら単純に2名で割っても一人5.5時間勤務です。しかし24時間であれば、その倍以上の時間勤務か人数が必要となってきます。
また、24時間営業のため勤務形態が不規則になります。一人が継続して朝から昼まで、もう一人が夜だけという勤務にすると片方の人に負担が大きくかかります。そのため、平等性を高めるため朝昼夜を交代シフトにすることで必然的に不規則な勤務形態になってしまうのです。
長時間労働、不規則な勤務形態により心身のコントロールが図りづらいことから離職者が多くなる傾向にあります。
休日数が少ない・有休が取りづらい
24時間365日営業、シフト制の勤務形態の場合、一人当たりの休日数が少ない傾向にあります。
人数を多く雇えば勤務時間を減らしたり休日数を増やしたりすることはできますが、昨今は雇用の需要が減少していること、闇雲に人数を増やすことで人件費が経営を圧迫することなど別の問題も生じます。
経営できる範囲の人件費で回すと、休日数は必然的に少なくなるでしょう。一人当たりの休日数が少なく勤務時間が長い場合、必然的に有休も取りづらくなります。休みが少ないと心身ともに疲弊しやすいため、離職率が高くなりがちだと言えるでしょう。
給料が少ない
2024年版 112業種のモデル年収平均ランキング(マイナビ転職)をチェックしてみると以下のような結果が出ています。このランキングで宿泊業界、ホテル業界は平均440万円となっており、全業種の中でも低い傾向にあります。勤務時間が長く休みも取りづらいうえに、給与が少ないとなると必然的に離職率も上がってしまうでしょう。
ランキング | 業界 | 平均モデル年収 |
---|---|---|
1位 | 外資系金融 | 1,490万円 |
2位 | 生命保険・損害保険 | 919万円 |
3位 | 商品取引 | 901万円 |
4位 | 専門コンサルタント | 740万円 |
5位 | 不動産 | 723万円 |
参照:2024年版 112業種のモデル年収平均ランキング(マイナビ転職)
スタッフ一人ひとりの業務負担が大きい
宿泊業界・ホテル業界では、スタッフ一人ひとりの業務負担が大きいことも離職率が高い理由の一つです。たとえば受付の業務一つをとっても、接客から予約、キャンセル処理、電話応対など多岐にわたります。その上慢性的な人材不足により、一人ひとりの業務負担も過多になっています。
業務量が給与に見合っていないというのも、離職の理由として上位にあがっているのが現状です。
宿泊業界・ホテル業界の離職率を改善するための対策
宿泊業界・ホテル業界の離職率を改善するためには、給与などの待遇面の検討、働きやすい環境の整備、業務全体の見直しなどが必要になってきます。全てを同時に行うと経営側かスタッフ側に負担が偏るため、優先順位を立てて計画的に改善していきましょう。
ここでは、宿泊業界・ホテル業界の離職率を改善するための対策をご紹介します。
給与水準の改善
宿泊・ホテル業界以外にも言えることですが、給与水準の改善を図ることができれば離職率は下がるでしょう。他業種より勤務時間が長く、休みが取りづらいケースでも、それに見合った給与を貰えるなら従業員の納得度も上がります。
働きやすい環境の整備
離職率を下げるための対策で、宿泊・ホテル業界に最も需要だと言えるのが「働きやすい環境の整備」です。具体的には一般企業と同等ほどの8時間勤務・週休2日制を確立させることや、有休を取りやすい環境をつくることなどです。従業員が体を休める時間、リフレッシュする時間を確保できれば離職率減少につながるでしょう。
IT化・DX推進による業務効率化
宿泊・ホテル業界は、IT化・DX推進が遅れている業界と言えます。ゲスト側からの予約、キャンセル作業はほとんどの店舗でIT化できていますが、ホテル側のキャンセル処理や空室のコントロールはまだアナログなところも多いでしょう。
とは言え、受付を無人にするホテルも登場しています。IT化・DX推進による業務効率化により、スタッフの業務過多解消、働きやすい環境の整備、人件費削減からの給与水準向上にもつながります。
外国人スタッフの採用
宿泊、ホテル業界のみならず、日本は慢性的な人材不足に陥っています。人口の減少もあり、やむを得ない状況とも言えるでしょう。
人材不足を解消する一つの手として、外国人スタッフの採用を積極的に取り入れていくことも考えられます。日本で働いている外国人は、2021年時点では172万7,221人で、一度過去最高になりその後も増加傾向にあります。
外国人スタッフが働ける環境づくりをして積極的に雇用していくことで、人材不足を補うことができるでしょう。
参照:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ 令和3年10月末現在(厚生労働省)
人材育成の見直し
宿泊業界ホテル業界の平均勤続年数は、2020年時点で約10年です(厚生労働省しらべ)。
ほかの業種と比較しても勤続年数が短く、入社してすぐに退職する人も多い傾向にあります。評価制度がなく業務体系化ができていないことが、原因の一つにあります。人材育成を見直す方法として、入社してから3年目までのキャリアモデル、中堅、管理職などそれぞれの立場でのキャリアアッププランを明確にすることが必要です。
マニュアルの作成
業務内容や顧客対応が属人化すると、人によって業務にかかる時間やサービス内容が異なり、顧客満足度を低下させる原因になります。業務の体系化、育成の仕組みづくりなどの一つの基準としてマニュアルを作成することで、どのスタッフが担当しても一定のクオリティで業務を遂行できるようになり、人材育成コストの削減にもつながります。
宿泊業界・ホテル業界の業務改善に活用できるシステム
現在、宿泊業界やホテル業界の業務改善において、多くのシステムやツールが提案されています。実例として、以下のようなシステムを活用して業務効率化している旅館やホテルが多くあります。
- ホテル管理システム
- 自動チェックイン機
- 鍵管理システム
- 清掃ロボット
ホテル管理システム
予約や部屋割り、客室清掃の管理などを一元して行えるシステムで、業務効率化において有効だと言えます。システムによっては自動チェックイン機などとの連携も可能なのが特徴です。
自動チェックイン機
フロントでのチェックインを自動で行えるシステムで、ゲストが自ら操作するため従業員の負担を減らすことができます。加えて、フロントの混雑を解消できたり外国人への対応が行いやすくなったりといったメリットもあります。
鍵管理システム
専用アプリなどにより、ゲストがそれぞれスマートフォンを使用することで施錠・解錠ができるシステムです。自動チェックイン機と連動すれば、フロント業務の大幅な効率化が期待できます。
清掃ロボット
効率的に清掃を行えるため、人材不足等の課題解決につながる可能性があります。さらに、薄型の掃除ロボットを使用することで人力では難しい場所の清掃も可能になるでしょう。
ホテルの労働環境を見直して人材不足の改善に取り組もう
ホテルはゲストとの出会いがある素敵な職場です。しかし、現状の労働環境は決して良いものとは言えません。ホテルにおける課題を明確にして優先順位を立てて計画的に改善に取り組み、慢性的な人材不足を解消していきましょう。
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