ホテル業務を効率化する施策6選│生産性向上のポイントや成功事例を紹介
ホテル業務を効率化する施策6選│生産性向上のポイントや成功事例を紹介
以前から深刻な問題として注目されているホテル業界の人手不足ですが、業務内容には口頭伝達や紙類を使用したものも多いため、従業員にかかる負担が大きくなっている課題もあります。深刻な人手不足の解消とあわせて、従業員の負担軽減を目的とした業務の効率化も必要不可欠です。
そして業務の効率化を目指した改善を進める際には、従業員目線に立つことを意識しなければなりません。
本記事ではホテル・旅館などの宿泊業全体における業務効率化や生産性の向上が叫ばれる理由とともに、改善するメリット・注意点・改善事例などを紹介するので、ぜひ参考にしてください。
ホテルで業務効率化・生産性向上が必要とされる理由
なぜホテルの業務効率化や生産性向上が必要とされているのか、その理由を紐解いていきましょう。
非効率な業務が多い
業務効率化・生産性向上が必要とされる理由のひとつに、非効率な業務があげられます。
- 紙の宿泊台帳による宿泊客の予約管理
- 紙媒体による忘れ物管理
- 個別の鍵・カードキーによる客室管理
上記は非効率な業務の一例ですが、これらの方法で業務・管理を行うと従業員の作業工数が増加し、手間と時間がかかるだけではなくヒューマンエラーも発生しやすくなります。
ヒューマンエラーが発生すると、貴重な人材がトラブル解消のために割かれることになりかねません。その結果、宿泊客への対応が遅れる原因にもなります。
また上記に挙げたような方法で業務を進める場合、新しく雇用した従業員は複雑な作業が多いことから、全てをマスターするまでにかなりの時間を要します。すると、既存の従業員は新人教育と通常業務を長期にわたって並行して行わなければならず、負担が大きくなります。
人手不足が深刻化している
人手不足の深刻化も理由のひとつです。
近年、少子化が進んでいることで多くの業界・産業で人手不足が深刻化しています。宿泊業も例外ではなく、帝国データバンクによると、2024年に実施した「ホテル・旅館業界の動向調査」では人手不足の割合が6割を超えているとのことです。正規社員だけではなく、非正規社員を含めても6割のホテル・旅館が深刻な人手不足の問題を抱えており、多くのホテルで新たな人材を強く求めている現状が垣間見えます。
また、厚生労働省が公表している「令和5年 雇用動向調査の結果概要(産業別の入職と離職)」を確認すると、離職者数は「宿泊業、飲食サービス業」が最も多い結果を示しています。新たな人材確保が困難な状況にある中で、離職者数が多いことも人手不足の深刻化に拍車をかけているのが現状です。
参考:帝国データバンク『「旅館・ホテル業界」動向調査(2023年度)』
参考:厚生労働省『令和5年 雇用動向調査の結果概要(産業別の入職と離職)』
IT化が遅れている
宿泊業はIT化が遅れており、生産性向上に悪影響を及ぼしていると考えられています。
例えば「非効率な業務が多い」で紹介した予約・忘れ物・客室の管理は、全てITツールを導入することで業務の効率化が可能です。インターネットの普及に伴い宿泊客はスマートフォンやタブレットなどのデバイスを利用して予約をすることが多くなりました。ITツールの導入によって、従業員の作業量は軽減されます。フロント業務などの合間に管理システムを確認すれば、大幅な時間と労力が割かれることもありません。
このようにホテル業務の中にはIT化が可能なものが多数ありますが、その導入があまり進んでいないのが現状です。その理由として、従業員の教育があげられます。全ての従業員がスムーズにITシステムを使いこなせるようになるまでには、教育に時間がかかります。
IT化は長い目で見れば業務効率や生産性向上に役立ちますが、機能するまでに時間と負担がかかる点が課題といえます。
環境やニーズが変化している
2020年に世界中に蔓延した新型コロナウイルスの影響で、多くの業界でニーズが変化しています。
ホテル業界の場合、コロナ禍前は従業員による丁寧な接客や宿泊客にあわせたおもてなしが重視されていました。しかしコロナ禍以降、衛生面や感染リスク軽減といった観点から非対面・非接触型の接客を希望する宿泊客も増加してきました。
丁寧な接客やおもてなしを求める声がある一方で、非接触型を希望する宿泊客も増えつつあるなど、ホテルを取り巻く環境は変化しています。これら全てに対応しなければならないことを背景にホテルの業務内容はさらに複雑になっており、業務の効率化や生産性の向上が求められています。
ホテル業務を効率化・改善するメリット
ホテル業務を効率化・改善する主なメリットは以下の通りです。
- 人手不足の解消
- コスト削減
- ヒューマンエラーの未然回避
- 競争力強化
- 宿泊客の満足度向上
最大のメリットは、多くのホテルが抱えている人手不足の解消です。
例えば、業務の効率化を目的としてITシステムを導入したとします。ルーティンワークをITシステムが代行することで、少ない人数でもホテルの運営が成り立ちます。また従業員の負担も軽減されることから、離職率を下げることにもつながります。
ホテルの経済状況を圧迫しているのは人件費であり、ITシステムを導入すればその分の人件費が削減されます。システムの維持管理費のみで良いので、効果的なコストカットが期待できます。
そのほかにも業務を効率化・改善すれば、宿泊客にあったきめ細やかなサービス提供が可能になり、宿泊客の満足度は向上します。
このように多くのメリットが期待できることから、業務の効率化・改善が求められています。
ホテル業務改善の手順
ホテル業務を改善する必要性やメリットを紹介しましたが、実際に行う際にはどのような方法で進めれば良いのでしょうか。おすすめの手順は以下の通りです。
- 業務内容や課題の洗い出し
- 効率化施策を検討・実施
- 継続的な検証と改善
各手順を掘り下げて解説するので、参考にしてください。
業務内容や課題を洗い出す
効果的な業務改善を実現させるためには、ホテルが抱えている課題や業務内容の洗い出しをしなければなりません。例えば以下のようなポイントに着目して、洗い出しを行うと良いです。
- 作業手順の多い業務
- ヒューマンエラーの多い業務
- 従業員から改善の声が上がっている業務
- スポット従業員で代行できる業務
作業手順の多い業務はヒューマンエラーが発生しやすく、研修などで多くの時間を取られることになります。従業員への負担が大きくなることが懸念されるため、課題として取り上げておいたほうが良いです。
また洗い出しは施策の検討や実施につながるものであり、それらを実行するのは従業員です。全従業員へのヒアリングやアンケートなどを実施して、改善の声が上がっているものは改善点として取り上げましょう。
業務効率化の施策を検討・実施する
業務内容や課題点の洗い出しが完了したら、次は施策の検討と実施を行います。
課題・問題点 | 施策案 |
---|---|
作業手順が多い業務 | ・ITシステムの導入 ・既存マニュアルの見直し など |
ヒューマンエラーが多いもの | ・自動化推進 ・従業員の再教育 など |
従業員から改善の声が上がっているもの | ・従業員からの施策案を採用 ・ミーティング など |
スポット従業員で代行できる業務 | ・簡略化されたマニュアルの作成 ・業務内容の細分化 など |
上記は、前述の洗い出しで紹介したポイントに対する施策案の一例です。
なお取り組んでみた結果、さらなる改善点が浮き彫りになることがあるので、作成した施策案は全て実施しましょう。
効果検証と改善を繰り返す
改善は継続して行わなければ、十分な効果を発揮しません。理想と現実の間には大きな差があるからです。
施策案を実施したあとは、必ずその効果を検証して下さい。期待値に対してどれくらいの効果が得られたのか、こまめにチェックしましょう。思うような効果が得られていない場合は、施策案に問題や改善点があります。検証の結果、効果が不十分だと感じるものについては再検討を行い、新たな施策を打ち出して実施しましょう。
ホテルの業務改善を行う際の注意点
業務改善を行う際、以下のような点に注意してください。
- 課題点の明確化
- 検証と改善の継続
- 従業員の研修
業務改善を行う際には、問題点や課題点を明確化しておかなければなりません。特に効率化したい業務やヒューマンエラーの多い業務は、重要案件として取り上げておきましょう。
また洗い出しや施策案の作成だけでは、業務改善は期待できません。短時間で十分な効果が得られるものではないので、長期にわたって検証と改善を繰り返し行いましょう。
従業員の研修・教育も重要です。例えばITシステムを導入した場合、それらを使用するのは従業員であることから、従業員一人ひとりの声を取り入れつつスムーズに利用できるように研修しなければなりません。
ホテルの業務効率化・生産性向上を実現する施策
業務効率化・生産性向上を実現するために有効な主な施策は以下の通りです。
- ITシステムやデジタル化
- ノウハウ・ナレッジの蓄積と共有
- スキルマップ・チェックシートの導入
- 従業員のスキルアップ
- 従業員のマルチタスク化
- 客室清掃の効率化
それぞれの施策を詳しく解説するので、参考にしてください。
ITシステムや業務のデジタル化
ITシステム導入や業務のデジタル化は、業務効率アップや生産性向上が期待できる施策のひとつです。
例えば以下のような業務は、デジタル化することで改善が見込めます。
改善業務 | 主な業務内容 |
---|---|
在庫管理 | アメニティグッズ、リネン類など |
フロント | 予約、問い合わせ、チェックインアウトなど |
バックオフィス | 勤怠管理、シフト管理、経理面など |
ホテルの各部屋には、歯ブラシを例にさまざまなアメニティグッズが用意されています。また客室用のリネン類は毎日取り換えが必要なため、このような在庫管理は重要な業務のひとつです。在庫管理をITシステムで一元化すれば、在庫数の確認から新たな発注までを短時間で対応できます。
またフロント業務は、宿泊客のチェックイン・チェックアウトだけではありません。電話での問い合わせや予約なども仕事内容に含まれており、業務量や負担は多くなります。インターネットを介する予約システムを導入することで、これらは軽減されます。
ITシステムの導入や業務のデジタル化は、宿泊客に関連した業務だけではありません。従業員の勤怠・シフト管理や経理処理といったバックオフィスもデジタル化することで、大幅な業務効率の改善が期待できます。
ノウハウ・ナレッジの蓄積や共有
ホテルでは宿泊客の希望・要望に沿った柔軟な対応が求められますが、コロナ禍以降、衛生面や感染面などより多くの分野・視点での接客が重視されるようになりました。
このようなノウハウ・ナレッジは今後の経営に直結する重要な情報であることから、着実に蓄積して全従業員と共有しなければなりません。
例えばITシステムを導入して全従業員がアクセスできるような状態にしておけば、正確で迅速な情報伝達が可能です。またスマートフォンで利用できる業務アプリと連携させることで、写真や動画での情報共有が可能になり、細かな部分まで理解を深めることができます。
スキルマップ・チェックシートの導入
従業員のスキルレベルを明確にするスキルマップ・チェックシートの導入も、有効な施策のひとつです。
従業員一人ひとりのスキルレベルを判断することは意外と難しく、従業員本人も把握できていない可能性があります。スキルマップ・チェックシートを作成することで、本人でさえも把握しにくいスキルレベルが可視化され、従業員研修や個別指導などの際に役立ちます。
また個別の業務に対する得手不得手が明確化することで、適材適所に従業員を配置することも可能になります。従業員の能力に合致した部署・場所に配置することは、業務の効率化や生産性の向上だけではなく、従業員本人のモチベーション維持にもつながります。
従業員のスキルアップ
業務の多くは従業員の手によるものが多いことから、スキルアップも重要な施策です。定期的な社内研修や個別指導などを実施することで従業員全員のスキルが向上し、業務の効率化が期待できます。
従業員の丁寧で心のこもった接客スキルがアップすれば宿泊客の満足度向上につながり、宿泊施設の売上は大きく伸びるでしょう。
従業員のマルチタスク化
従業員のマルチタスク化も、ホテルの業務効率改善を目的とした施策としておすすめです。1人の従業員で複数の仕事を並行して担当できれば、多くの宿泊施設が抱える人材不足の問題解決にもつながります。
またマルチタスクが可能な従業員が増えれば、ほかの従業員が休暇を取得しているときでも業務フォローが可能です。1つの業務を多くの従業員で担当できれば休暇がとりやすくなり、有給取得率も向上するかもしれません。
このように従業員のマルチタスク化は業務面や生産面だけではなく、従業員にとってもメリットがある施策といえます。
客室清掃の効率化
多くのホテルは深刻な人手不足の問題を抱えていますが、そのなかでも深刻なのが客室清掃です。
客室の清潔さはホテルの評価に直結する一方で、清掃業務は工程が多く、時間がかかるなどさまざまな問題点があります。客室清掃業務に慣れていない従業員にとっては覚えることが多く、効率よく清掃できるようになるまでかなりの時間を要します。
初心者・未経験者でも効率的かつ丁寧な清掃ができるような仕組み・マニュアルを作成しなければなりません。
業務効率化に成功したホテルの事例
すでに業務効率化に向けた取り組みが行われているホテルもあります。ここでは箱根ホテル小涌園様とTOWAピュアコテージ様の成功事例を確認してみましょう。
客室精算の導入│箱根ホテル小涌園様
箱根ホテル小涌園様はリゾート施設というホテル形態から、チェックアウトぎりぎりまで滞在する宿泊客が多いです。そのためチェックアウト時間にはフロントが大混雑する問題を抱えていました。
スムーズなチェックアウト業務を目指して導入されたシステムが、客室清算機能です。フロントと客室のテレビインフォメーションをつなぎ、宿泊客がスマートフォンを利用して客室内で精算できるようにしました。
フロントでの精算待ち時間がゼロになり、宿泊客からの喜びの声が集まっています。
事前チェックインの導入│TOWAピュアコテージ様
TOWAピュアコテージ様はさまざまな部屋タイプを有してしており、チェックイン時の手続きに時間がかかる点が課題でした。
対面チェックイン時の手続き時間を短縮したいと考えて導入されたのが、「事前チェックイン」です。氏名や車ナンバーをはじめとする宿泊客情報の確認時間が短縮され、1日3時間程度の時間削減につながりました。
ホテル業務を見直して、従業員の負担軽減や生産性向上を図ろう
ホテルの業務効率化や生産性向上について解説しました。
ホテルの業務内容は非効率なものが多く、人手不足解消・感染症への対応といった観点からも業務効率化の必要性が重視されています。例えばフロント業務の自動化やITシステムによる情報の一元管理など、その施策はさまざまです。課題や問題点を洗い出し、解決につながる施策を検討しましょう。
※掲載されている内容は更新日時点の情報となります。