ホテル運営でかかるコスト・経費の内訳と効果的な削減方法
ホテル運営でかかるコスト・経費の内訳と効果的な削減方法
ホテルの利益率が思うように伸びないときは、コスト・経費がかかりすぎている可能性があります。ホテルや旅館を安定して経営させていくためには、売上増加にのみ目を向けるのではなく、コスト・経費の削減を行うことが非常に重要です。コスト削減というと難しいイメージがあるかもしれませんが、正しい方法で行えば売上増加よりも利益率の向上に効果があることも多いのです。
この記事では、ホテル運営におけるコスト構造や経費の内訳科目、それぞれの削減ポイントを解説します。自社ホテルのコスト削減を考えている方は、ぜひ参考にしてください。
ホテルの運営にかかるコスト・経費
固定費
固定費とは、売上や宿泊客数とは無関係に、ホテル経営を行う上で必ずかかる費用のことです。たとえば、以下のような科目が当てはまります。
【経費】
- 地代家賃(土地や建物の賃料)
- 水道光熱費(水道、電気、ガスなど)
- 大型機械類にかかるリース契約費
- 通信費(電話料金、郵便料金、インターネット関連費)
【コスト】
- スタッフの人件費
- 業務委託費(清掃、警備など)
- 広告宣伝費(宿泊客やスタッフ募集)
- 設備投資費、管理費
ホテル・旅館経営においては、変動費よりも固定費が占める割合が多いのが一般的です。売上が高い時には意識しなくても、売上が伸び悩んでいる時には大きな負担に思えるでしょう。その半面、継続的に抑えられれば、コスト削減の効果が高いともいえます。
変動費
変動費とは、文字通り売上や宿泊客数によって変動する費用のことです。例えば、以下の科目が変動費に当てはまります。
【経費】
- 食材費
- 消耗品費(シャンプー、スリッパなどのアメニティ)
- 備品消耗品費(ドライヤーやハンガーなどの客室設備)
- 衛生費(シーツ、枕カバー、バスタオルなどのリネン類)
宿泊客数が増加すれば備品消耗品の使用ペースが上がるように、変動費は宿泊客数と比例関係にあると言えます。変動費をコスト削減の対象にする場合、費用の額よりも売上とのバランスを考慮するのがポイントです。
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ホテルでコスト・経費の削減を行う際には、いくつか注意すべき点があります。
最も重要なのが、コスト削減によってホテルに対する宿泊客の満足度を下げないようにすること。闇雲にコスト削減を行ってしまうと、利益が上がるどころか、逆効果になってしまう恐れがあります。特に、変動費は顧客満足度に影響が大きいので、極力削減しない方がよいでしょう。
たとえば、食材費を大幅に削減してしまうと、ホテルのルームサービスやレストランで提供する食事の質が低下し、顧客満足度の低下につながります。顧客満足度の低下は、ホテル経営の安定性を左右する「リピート率」が下がる、口コミ評価が悪くなる、などのデメリットを生じさせます。ホテル経費の内訳をみて、変動費の割合が相当部分を占めている場合を除き、固定費の削減から考えていくようにしましょう。
ホテル運営で削減できるコストや経費
ここでは、ホテル運営で削減できるコストや経費をご紹介していきます。コストを見直す際のポイントや注意点にも触れていきますので、無理のない範囲で取り組んでいきましょう。
設備投資費・管理費
ホテル業界では、設備投資を計画している企業が非常に多いと言われています。たとえばITシステムの導入などは、長期的な人件費削除や業務効率化につながるため、投資を考えている経営者の方はいらっしゃるでしょう。しかし、設備投資には 多額の費用がかかるため、コスト削減の際は第一に候補に挙がる 項目です。
各自治体ではホテルの設備投資のための補助金制度を設けているので、利用を検討してみましょう。一例として、以下の補助金制度が挙げられます。
- IT導入補助金
- 小規模事業者持続化補助金
- ものづくり補助金
これらはDX化、ITシステム導入が対象となる補助金制度です。国の制度ですが自治体によっては上乗せもあり、利用できれば大幅なコスト削減が可能です。
ホテル設備の保守や修繕に必要な管理費は、削減が難しいと考えられるかもしれません。しかし、メーカーによる保守サービスから保守管理専門業者のサービスに乗り換えるなど、削減できる可能性はあります。
人件費
一般的なホテルや旅館において、最も割合の多いコストは人件費です。人件費削減を考える場合は、スタッフの不平不満を生まないような配慮が必要です。給与やボーナスのカットによる人件費は、スタッフのモチベーションが下がる原因になりがちです。
人件費を減らすことがスタッフの負担軽減につながるのが理想的です。たとえば、セルフチェックインシステムや自動精算機の導入などが挙げられます。チェックインや精算などのフロント業務は、スタッフの能力や得手不得手に左右されにくいため、自動化してもモチベーション低下につながりにくいです。
水道光熱費
水道光熱費を削減するためには、ホテル全体での取り組みが不可欠です。スタッフ全員に周知する形で、節電や節水に取り組むことが削減の近道になるでしょう。
物理的な施策としては、照明のLED化や人感センサー、太陽光発電の導入などが挙げられます。また、ピークカット(電力を最も多く使用する時間帯に電気使用量を減らすこと)への取り組みも効果が期待できます。
近年は、SDGs(持続可能な開発目標)の概念の普及から、節電や節水への理解を得やすくなっています。ただし、空調温度の見直しを行う場合は、スタッフの稼働率が悪くなったりお客さまの不満を生んだりしない程度にとどめるようにしましょう。
気づきにくいところでは、空調設備の定期清掃も電気代削減につなげられます。空調内部に汚れやホコリがたまっていると、消費電力が増えて電気代上昇の原因になるのです。長い目でみると、費用をかけてでも空調の清掃を定期的に行うことをおすすめします。
食材費
食材費は、旅館においては売上に対する経費の20%程度を占める科目といわれています。旅館での食事は、ホテルや飲食店とは異なり、予約の時点で提供が決まるものですから、食品ロスを避けるためにも、予約数に応じた仕入れ量のコントロールが不可欠です。
ホテルや旅館で食材費を削減する際は、原価を把握してください。原価の高い食材がある場合、メニュー・レシピの変更を行う、あるいは食事の提供料金を上げるなどの施策が必要です。しかし、これらの施策はお客さまの不満を生むリスクも抱えています。仕入れ先を複数にし、価格交渉を行うなど仕入れ価格を下げる方法も効果的です。
通信費
ホテルの事務処理に必要なインターネット回線や、お客さまが利用するフリーWi-Fi、電話代、郵便代なども通信費に含まれます。削減する方法として、契約しているインターネットプランやプロバイダの見直しが挙げられます。
インターネットが普及した昨今、さまざまな企業がネット回線を提供しています。価格の競争性も高く、法人向けのサービスも充実しているので、定期的に複数の通信業者でプラン料金の比較をするのがおすすめです。
また、自動販売機を設置するとWi-Fiスポットのイニシャルコスト・ランニングコストが無料になる「自動販売機一体型Wi-Fi」などもあります。経費削減の一つの方法として検討してみましょう。
業務委託費
客室清掃やレストランスタッフなど、一部の業務を外部に委託しているホテルも多いです。外注する際の業務委託費は、自社スタッフの人件費よりもコストがかかるのが一般的です。そのため、業務委託費の割合が多い場合、委託費の交渉や人員削減、自社スタッフの増員などを検討するのもよいでしょう。
ただし、委託費の交渉がスムーズにいくケースは少ないため、業務範囲の変更などを条件として委託業者と相談してください。
消耗品費
経費の一科目である消耗品費の見直しも、コスト削減に有効です。消耗品費には、シャンプー、スリッパ、歯ブラシなど客室のアメニティが含まれます。
2022年に施行されたプラスチック資源循環促進法の影響もあり、アメニティを希望者にのみフロントで配布する、アメニティを有料化する、などの施策を行うホテルは少なくありません。消耗品費の削減は、原価の縮小だけでなく、消耗品を補充するスタッフの負担軽減・人件費削減にもつながるため、積極的に取り入れていきましょう。
リネン類などの衛生費
シーツ、枕カバー、バスタオルなどのリネン類の購入やクリーニングにかかる費用が衛生費です。納品数の管理を外部業者に任せているホテルも多いですが、必要以上に納品されているケースもあります。過剰分がないか、確認をとってください。
また、価格の安い業者に切り替えるのも一つの手段です。顧客満足度に影響しないよう配慮も必要ですが、ホテルのロゴ入りからロゴなしに変える程度であれば問題ないでしょう。
最近では、滞在中の清掃やリネン類の交換を不要とする「連泊エコプラン」を導入するホテルが増えています。宿泊料金の割引が条件となりますが、ホテルを安く利用したいお客さまに喜ばれるため、検討してみてください。
広告宣伝費
固定費でありながら、大幅カットが可能なコストが広告宣伝費です。ひと昔まえは、テレビCMや新聞、雑誌などに高額な放映費や掲載料を支払って広告を出すホテルも多かったと思います。しかし、インターネットが普及した現在は、Web広告やSNSを広告ツールとして活用し、集客を行うのが当たり前になっています。
ポスターやチラシ、DMを宣伝ツールにしている場合は、Web広告やSNSに切り替える、もしくは印刷業者を比較して安い業者と契約するといった施策を取りましょう。
OTA手数料
OTA手数料とは、ホテルの予約を行うオンライン旅行代理店に支払う手数料のことです。集客効果が非常に高い半面、8~15%程度の手数料がかかるため、OTA経由での予約が多くなると、経費負担が厳しいと感じるかもしれません。
OTA手数料の削減方法として、まずは自社ホテルのホームページを見直すことをおすすめします。ホームページでの集客が増えれば、OTA予約に頼ることもなくなり、手数料の負担が軽減できます。また、ホームページからの予約が最も安い料金であることを保証する「ベストレート保証」を取り入れることも重要です。
ホテルの経営改善に向けてコストの内訳や金額を把握しよう
取り組みやすいものとしては、広告宣伝費や消耗品費のカットが挙げられますが、単にコストカットすればよいというわけではありません。自社ホテルのオリジナリティやアイデアが問われる部分です。宿泊客の目線に立ち、魅力が伝わるような内容にしていきたいものです。
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