ホテル・旅館の現状把握や経営分析に役立つ!
客室稼働率分析表
- 客室稼働率を日別で確認可能
- ADRやRevPARも同時に分析可能
- 統計に基づいた平均値との比較つき
ホテル経営にあたって重要な指標の一つが「利益率」です。利益率が水準を下回ると経営が困難になる可能性があります。安定した利益率を保つためには、ホテルの利益構造を理解して、課題を発見・解決することが大切です。
この記事では、ホテルや旅館の収益構造について解説します。ホテルの利益率が低い場合の施策についても触れていきますので、ぜひ参考にしてください。
利益率とは、売上に対する利益の割合を示すものです。計算方法は以下になります。
たとえば、粗利高が2億円で営業利益が2000万円の場合、利益率は「(2000万円÷2億円)×100」、10%です。
利益率は経営の安定度をみる重要な指標です。利益率が低いのは経営が効率的ではないことを意味し、マイナスの状態(赤字)が続くと、倒産のおそれもあります。利益率が一般的な水準である10%を下回る場合は、対策が必要と考えられます。
業界動向リサーチによる調査では、2022~2023年のホテル業界の利益率がランキング化されています。
順位 | 施設名 | 利益率(%) |
---|---|---|
1 | ロイヤルホテル | 50.6 |
2 | ルートインジャパン | 21.6 |
3 | 東横イン | 20.7 |
4 | ABホテル | 20.7 |
5 | ワシントンホテル | 18.3 |
6 | オリエンタルランド | 16.7 |
7 | 西武HD | 13.2 |
8 | アメイズ | 11.7 |
9 | グリーンズ | 11.3 |
10 | リゾートトラスト | 10.0 |
参考:ホテル業界 利益率ランキング 2022-2023年(業界動向サーチ)
https://gyokai-search.com/4-hotel-riritu.html
利益率の高いホテルが1位から28位まで紹介されていますが、群を抜いて割合が高いのがロイヤルホテルです。2位のルートインジャパンから10位のリゾートトラストの利益率は、水準となる10%に到達しています。11位以降は一桁になっており、23位以下はマイナスという結果が出ています。
実際のホテルの利益率がどれくらいか知っておくことは、自社ホテルにおける利益率の目標を立てる際の参考になるでしょう。
また、財務省のデータでは、業種別の平均利益率を把握できます。全業種と宿泊業の平均利益率を比較してみましょう。
参考:財政金融統計月報 2006年(平成18年)1月~(財務総合政策研究所)
https://www.mof.go.jp/pri/publication/zaikin_geppo/hyou.htm
宿泊業は景気や季節、イベントなどさまざまな要因の影響を受けるため、安定した経営が難しいこともありますが、自社ホテルの利益率が水準を下回る場合、改善のために対策が必要です。ここでは、経営分析や収益改善に使える指標を紹介します。
客単価とは、お客さま1人が1回の利用で支払う金額のことです。計算方法は以下になります。
客単価は、自社ホテルの顧客層を見定める上で重要な指標です。高級志向であるならば客単価は高く、低価格志向であるならば低く設定するべきです。ホテルの利益を増やすためには、逆に実際の顧客層に合わせて設備やサービスを見直すことも必要でしょう。
文字通り、ホテルに宿泊をしたお客さまの人数を表すものです。宿泊に特化したビジネスホテルなどではキャパシティ(宿泊可能な客室数)が大きいため、宿泊客数は利益率に多くの影響を与えます。利益を増やすには、客単価と宿泊客数を同時に伸ばすことがポイントとなります。
キャパシティに対して、実際に宿泊された客室の割合を示すのが客室稼働率(OCC)です。 「Occupancy rate(オキュパンシー・レート)」の略で 客室稼働率(OCC)の計算方法は以下になります。
客室稼働率は、宿泊に特化したビジネスホテルにおいて特に重要です。宿泊以外の目的でも利用されるホテル、売上の多くをテナント収入やイベント収入が占めているホテルでは、客室稼働率が低くても利益率が高いケースがあります。
ホテル・旅館の現状把握や経営分析に役立つ!
客室稼働率分析表
ホテルに宿泊できる人数(定員)に対して、実際に宿泊した人の数の割合を示すのが定員稼働率です。定員稼働率の計算方法は以下になります。
本来なら200人が宿泊可能なホテルで、実際に宿泊した人数が100人だったとすると、定員稼働率は「(100÷200)×100」で50%です。定員稼働率は客室稼働率よりもホテルの利用状況が詳しく把握できます。
1部屋の収容人数が多いファミリー向けのホテルなどでは、客室稼働率が高くても定員稼働率が低い可能性はあります。ルームチャージ制をとらない場合は、客室稼働率と同時に定員稼働率も把握しておくべきです。
客室平均単価(ADR)とは、客室一室あたりの平均販売価格を表す指標です。ADRは「Average Daily Rate」の略で、それぞれの英単語は「平均・毎日・料金」を意味しています。客室平均単価(ADR)の計算方法は以下になります。
例えば、1日の売上が20万円で、宿泊があった客室数が10部屋だった場合、「200,000÷10」、客室平均単価は2万円になります。ホテルの経営を分析する、また収益改善を目指すうえで、ADRの目標設定は大切です。ただし、ADRの目標は、稼働率とのバランスを考慮する必要があります。ADRが高くても、稼働率が低ければ全体の売上増加につながらないためです。
販売可能客室数あたりの売上(RevPAR)とは、宿泊可能な客室1部屋あたりの収益を表す指標です。Revenue Per Available Room(レバニュー・パー・アベイラブル・ルームズ)の略で、「レヴパー」と呼ばれることもあります。計算方法は2通りあります。
例えば、客室稼働率が70%で客室平均単価が2万円の場合、RevPARは1万4,000円となります。RevPARが順調に増加していれば、客室稼働率、平均単価が向上していると判断できます。反対にRevPARが低下している場合は、客室稼働率を上げる方法を考えるか、客室単価の値上げを検討する必要があるでしょう。
1人あたりの宿泊数とは、お客さま1人あたりの宿泊日数を表すものです。計算方法は以下になります。
例えば、その月に宿泊したお客さまが200人で、宿泊日数が250泊の場合、「250÷200」で一人あたりの宿泊数は1.25泊です。一般的には、一1あたりの宿泊数が多ければ多いほど、ホテルで使用する金額も多くなると考えられるため、1人あたりの宿泊数は客単価と密接に関係しています。
1泊よりも2泊、2泊よりも3泊…というように、お客さまに長く宿泊してもらうことがの利益増加にもつながるでしょう。
リピート率とは、一度来店したお客さまが一定の期間内で再度来店する割合のことです。通常は1年間を基準にリピート率の計算をします。リピート率の計算方法は以下になります。
例えば、100人中30人のお客さんが再来店した場合、「(30÷100)×100」でリピート率は30%となります。リピート率は、お客さまの満足度を示す重要な指標です。ホテル経営の安定化を目指すなら、収益だけではなく、リピート率の向上を目指すことをおすすめします。
価格が安い、都市部に近い、などの理由で、ビジネスホテルはリピート率が高くなる傾向にあります。しかし、それ以外の部分(接客、サービス品質、設備内容など)もリピート率を増やす上で重要な要素です。
顧客満足度とは、ホテルを利用したお客さまの満足度を数値で表したものです。リピート率と同様、ホテルのブランド力や信頼性を計る重要な指標です。顧客満足度はお客さまの実際の声を反映したものなので、アンケートをとって把握する必要があります。一例として、次のような項目を設定し、5段階評価で採点してもらう方法があります。
顧客満足度が低い項目がある場合は、該当の項目についての対応が大切です。
バックオーダー数とは、ホテルにおけるキャンセル待ちの件数のことです。バックオーダー数が多ければ多いほどホテルの需要が高いといえます。また、バックオーダーが生まれる=満室になっていることが前提となるため、経営が安定していることが分かります。
原価率とは、ホテルが運営する飲食店(レストランやカフェ)の材料費の割合を表す指標です。原価率の計算方法は以下になります。
ホテルの飲食店での原価率は25%前後が一般的とされています。例えば、材料費が300円で価格が1,000円の料理の場合、「300÷1,000」で原価率は30%になります。原価率が高いと、売上に対して材料費が占める割合が多く利益が少なくなります。原価率を適正化するためには、材料費の見直しとともに、廃棄率も下げる努力をしましょう。
固定比率とは、ホテルの純資産(自己資本)と固定資産の比率を示す指標のことです。固定比率が低いほど経営の安全性が高いといわれています。計算方法は以下になります。
ホテルにおける固定資産には、建物や土地、設備などの有形固定資産と、営業権や特許権などの無形固定資産の2種類があります。固定比率が高いほど資金の余裕がなく、100%を超える場合は純資産で足りない分を借金で充当していることになります。
負債比率とは、純資産と負債の比率を示した指標です。負債は返済義務のある資産を指します。固定比率同様、この比率が低いほど経営の安全性が高いといわれています。以下の方法で計算します。
負債比率が100%以下であれば純資産で返済できることになります。
労働分配率とは、ホテルの事業活動で生まれた付加価値(売上総利益)が、人件費にどれだけ充てられたかを表す指標です。計算方法は以下になります。
設備に多くの費用がかかるホテルでは、労働分配率をいかに下げられるかが課題となります。
投資回収期間とは、投資した資金を回収できるまでの期間を示す指標です。投資の際の重要な判断材料となります。計算方法は以下になります。
投資回収期間が長くなるほど投資リスクが高まるため、2年以内など短期間を目安にするのが望ましいとされます。
市場浸透率(MPI)とは、「Market Penetration Index」の略で、自社ホテルと競合ホテル・ホテル業界の平均稼働率を比較し、シェア率を確認するための指標です。計算方法は以下になります。
市場浸透率が100を超えていれば競合ホテルより優位と判断できます。
平均料金指数(ARI)とは、「Average Rate Index」の略で、自社ホテルと競合ホテルの平均客室料金(ADR)を比較するための指標です。計算方法は以下になります。
平均料金指数が100程度であれば適正料金と判断できます。100以上の場合は高額、100以下の場合は安価ですから、料金設定の参考になるでしょう。
ホテルの経営を安定させるために理解すべき利益構造は「宿泊部門」「飲食・レストラン部門」「宴会・イベント部門」の3部門に分けて考えるのが基本です。
ここでは、ホテルビジネスの利益構造の部門別の特徴を解説します。
多くのホテルでは、宿泊部門の収益が大半を占めるため、利益率を向上する上で重要度が高い部門です。宿泊部門の利益率は60%以上であることが望ましく、支出にあたるフロントや客室清掃などの人件費や消耗品にかかる費用をいかに抑えるかが利益率アップのポイントといえるでしょう。とはいえ、経費はどのホテルにもかかるものですから、収入の増加、たとえば客室料金の値上げや稼働率の向上なども検討が必要です。
ホテルが運営するレストランやカフェなどの飲食店の収益も、ホテルの利益率において重要です。飲食・レストラン部門の利益率は20%が目安とされていますが、人件費や食材などの経費はカットしづらく、廃棄率も加味すると利益率が上げにくい部門といえます。提供価格の見直しや廃棄率の減少、宿泊客以外の利用促進などが利益率アップのポイントです。
宴会・イベント部門では、団体客の利用により一度に大きな収益を得ることが可能です。利益率の目安は50%程度といわれており、ホテルの規模や方向性によっては収益の大半を占める場合があります。事前に参加人数やスケジュールを調整できるため、人件費や食材などの経費も管理しやすい部門でもあります。競合ホテルと差別化を図り、集客力を高めることが利益率の向上につながるでしょう。
定員・ベッド数を増やすことで、より多くのお客さまにホテルを利用してもらうことができます。ホテルにおける定員は、最大稼働率とも相互関係があるため、十分な稼働率を確保している場合には検討したいポイントです。ただし、空室が多い、つまり稼働率が低い状態では定員・ベッド数を増やしてもあまり効果は期待できません。
小売業などであれば商品在庫を翌日に持ち越せますが、ホテル業ではそうはいきません。毎日、商品(客室)がどれだけ販売できるかが利益率を決めるため、1日ごとの稼働率が非常に重要なのです。稼働率を上げる最も簡単な施策は客室料金を下げることですが、極端に下げると利益を減らします。そのため、料金以外の部分(サービスやイベントなど)の工夫も稼働率を上げるために検討してください。
ホテルの人件費が気になる場合は、業務のデジタル化を進めることも検討しましょう。宿泊客が自分でチェックインを行う「スマートチェックイン」を導入すれば、フロントの無人化や省人化が可能です。また、予約管理システムを導入すれば、ホテル予約におけるトラブル(ダブルブッキングや予約日時の勘違い)を防止できます。
今回は、ホテルや旅館における収益構造を把握する指数の算出方法や利益率を高めるポイントについて解説しました。新型コロナウイルス感染拡大も影響して、ホテル業界は全体的に利益率が減少傾向でした。しかし、現在ではインバウンド需要の高まりも背景にあり、改善の余地は十分にあるといえるでしょう。
利益率はホテル経営の安定性を判断する上で欠かせないものです。記事でご紹介したいくつかの方法を上手く活用し、利益率向上を目指してください。
※掲載されている内容は公開日時点の情報となります。