ホテル業界で深刻化する人手不足の原因と対策│業務改善と労働環境の見直しが重要!
ホテル業界で深刻化する人手不足の原因と対策│業務改善と労働環境の見直しが重要!
近年のホテル業界は低賃金や長時間労働などが要因となる離職率の上昇を背景に、深刻な人手不足に陥っています。多くの宿泊施設では人材確保のために労働環境の改善や福利厚生の強化に努めていますが、直接的な人手不足の解消に至っていないのが現状です。
DX化の推進を模索しているところもあり、人材を確保するだけではなく人の手を介さずに質の高いサービスを提供する方向へシフトチェンジするホテルも増加傾向にあります。
本記事ではこのような宿泊施設の深刻な人手不足の実態や原因・対策を解説します。
ホテル業界の人手不足の現状
ホテル業界の人手不足が叫ばれていますが、実際の現状はどのようになっているのでしょうか。
帝国データバンクが2024年7月9日付で公開した「ホテル・旅館業界の動向調査」では、売上・客室稼働率はコロナ前とほぼ同水準まで回復しているとする一方で、人手不足の割合は正規・非正規人材ともに6割を超えていると発表しています。現在運営を行っているホテル・旅館の半分以上が、従業員の人数が不足していると答えています。
観光庁では「観光地・観光産業における人材不足対策事業」として宿泊業者の補助金制度をスタートさせました。2024年3月から一定の期間に区切って公募を行っていますが、この対策事業はまだ始まったばかりであり、どのように功を奏するのかは現段階では未知数です。
参考:帝国データバンク『「旅館・ホテル業界」動向調査(2023年度)』
https://www.tdb.co.jp/report/industry/7cujz1u3cgju/
人手不足によって起こる影響
ホテル業界の人手不足は以下のような悪影響をもたらします。
- サービス内容や質の低下
- 既存従業員の負担増加
従業員の人数が十分に確保できなければホテル利用者へのサービスの内容・質は低下してしまい、不満を抱かせてしまいます。その結果、宿泊客や観光客の間で悪い口コミが広がり、そのホテルの利用者が減少してしまうかもしれません。最終的には、閉館や廃業に追い込まれる可能性もあります。
また従業員の業務が増加することで負担が大きくなることも、想定される悪影響の一つです。業務負担が増加すると労働環境の悪さから離職を考える従業員が増加し、労働不足にさらなる拍車がかかります。
ホテル業界が人手不足に陥った背景
ホテル業界はなぜ深刻な人手不足に陥ったのでしょうか。その背景を探ってみます。
コロナ禍による人材流出
背景の一つとして、コロナ禍による人材流出が挙げられます。
新型コロナウイルスの蔓延を受けて観光客や宿泊客が激減し、多くのホテルが休業や廃業を余儀なくされました。いつ緊急事態宣言が解除されるかわからない状況の中で、多くのホテルは従業員を雇用し続けることが困難になり、解雇しなければならなくなったところも多数あります。
解雇された多くの従業員は別のホテルや別の業界へ転職をしており、コロナ終息宣言後に従業員として戻ってくることは困難な状況です。その結果、慢性的な人手不足に拍車がかかり、深刻化しています。
観光・宿泊の需要回復
観光・宿泊の需要回復も、人手不足の背景としてあげられます。観光・宿泊の需要が低い状態だったコロナ禍は、少ない従業員でも十分なサービスが提供できました。
しかしコロナ終息宣言をきっかけに国内だけではなく、海外からの観光・宿泊も需要回復とともに宿泊客が増加しています。宿泊客が増加すれば少ない従業員数では、きめ細やかで行き届いたサービス提供は困難になります。
また円安もインバウンド需要の後押しとなっており、宿泊客数は需要回復どころか爆発的な増加傾向にあるといえます。多くのホテルが深刻な従業員不足を抱えており、急増した宿泊客に対応するために人材確保に奔走しているのが現状です。
このような背景・流れからホテル業界全体の人手不足が深刻な問題になっています。
ホテルの新規開業
ホテルの新規開業の増加も人手不足の背景の一つです。
2020年に開催された東京五輪を受けて、ホテル業界では数年前から積極的に新規開業が進められてきました。東京五輪による多くの海外観光客がホテルを利用すると予想し、政府が積極的に新規開業を推奨したためです。
しかし日本は少子高齢化が社会問題となっており、さまざまな業界で労働者不足が叫ばれていました。ホテル業界も同様に人材不足が問題視されていた中で、多くのホテルが開業されればこの問題に拍車がかかることは容易に想像できたはずです。
社会問題となっている少子高齢化の直接的な解決策が編み出されない中で多くのホテルが新規開業されたため、以前から抱えていた人手不足が深刻化して現状にいたっています。
宿泊業界の離職率の高さ
離職率の高さも、人手不足の背景といえます。
「ホテルの新規開業」「急速なインバウンド需要」「コロナ禍での人材流出」などが起こる前から、ホテル業界は離職率が高いという傾向がありました。その主な原因は、労働環境水準の低さが挙げられます。
賃金面や福利厚生面での条件が悪く、宿泊施設に就職・転職しても長続きしないのが原因です。やはり労働条件や環境の悪い職場で長く働きたいと思う人はあまり多くないでしょう。
新たに従業員を雇用してもすぐに離職してしまい、従業員の仕事量は増えるばかりです。条件・環境が悪い中で仕事量が増加すると既存従業員の中にも退職を考える割合が増加し、宿泊業界はますます人手不足が深刻化しています。
ホテルが人手不足になる原因
ホテルが人手不足になる原因は主に以下の通りです。
- 低賃金
- 休みのとりにくさ
- 長時間労働
それぞれの原因を詳しく確認していきましょう。
給料が低い
ホテルが人手不足になる原因の一つは、低賃金です。
従業員給与が低いことは、はコロナ禍前から続いており、直近数年のことではありません。
厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査(産業別)」によると、「宿泊業、飲食サービス業」は数ある産業の中でも最も低くなっています。
就職・転職市場が活発化する中で賃金の低い業界を選択する人は少なく、ホテルは人手不足になっているのです。
参考:厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査(産業別)』
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2023/index.html
休みがとりづらい
休みがとりづらい点も、ホテルの人手不足の原因といえます。
厚生労働省が公表している「令和5年就労条件総合調査(労働時間制度)」によれば、2022年の1年間で企業全体の労働者有給取得日数は10.9日であり、全体の平均取得率は62.1%と過去最高でした。しかし「宿泊業、飲食サービス業」は49.1%と半分にも満たず、全体の産業別では最も少ない取得率です。
このようにホテルは有給休暇を付与されても取得できない従業員が多く、とりづらい状況にあることが垣間見えます。
参考:厚生労働省『令和5年就労条件総合調査(労働時間制度)』
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/23/
不規則で長時間労働になっている
長時間労働も人手不足の原因であり、拍車をかける要因の一つとしても挙げられます。
前述の「休みがとりづらい」で参考にした厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査(労働時間制度)」には、産業別の労働時間もデータとして掲載されています。それによると1企業の週所定時間は平均39時間20分、その中で「宿泊業、飲食サービス業」は平均39時間35分であり、産業別の中で最も長い結果となりました。
全体的な平均時間と比較すると15分程度ですが、多種多様な産業がある中で最も長い労働時間を示している宿泊業は、多くのホテルで長時間労働を余儀なくされているといえます。
ホテルの人材不足を解消するための対策
ホテルの人材不足を解消するための対策として、以下のような方法があります。
- 賃金・福利厚生面の改善
- 労働環境の改善
- 業務のDX推進
- 人材採用と教育制度の強化
それぞれの対策を詳しく確認していきましょう。
賃金や福利厚生の改善
人手不足の解決策として、賃金・福利厚生の改善があげられます。解決項目 | 具体的な改善内容 |
---|---|
賃金 |
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資産形成 |
|
福利厚生 |
|
ホテルの規模や大きさによって、導入や改善が難しい内容もあるかもしれません。しかし従業員の目線・立場に立って、上記のような賃金・福利厚生面の改善に努めることで、既存従業員の職場離れを減らし、新たな人材確保にもつながります。
労働環境の改善
労働環境の改善も、人手不足解決の有効な対策です。
解決項目 | 具体的な改善内容 |
---|---|
労働時間 |
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休日 |
|
例えば一部のホテルでは中抜け勤務という働き方が導入されていますが、これはかえって従業員の負担になります。数時間の休憩後には再び多くの業務が控えているため十分な休息とはいえず、精神面で休まらないという人も少なくありません。
このような従業員に負担を強いるような方法ではなく、仕事・職場から離れて休息がとれる環境を提供することが重要です。
ホテル業務のDX推進
業務のDX推進も、ホテルの人手不足解決策として有効な手段といえます。
インターネットの普及率増加に伴い、スマートフォンやパソコンから予約を行う宿泊客が増加しました。これを受けて「予約システム」「客室管理」「自動チェックイン」のデジタルツールを導入することで、従業員の業務量が減るだけでなく生産性の向上にもつながります。
ただし業務のDX推進は、それを扱う従業員の教育が必要不可欠です。デジタルツールやITシステムの導入だけではなく、操作方法などの教育時間が必要な点は新たな課題かもしれません。
人材採用と教育制度の強化
人手不足の問題を解決する最も有効な対策は、人材採用と教育制度の強化です。新たな人材を確保し、長期にわたって従事できるような教育制度を整えていくことは業界全体の人手不足解決につながります。
しかし現状では、最も有効とされるこの対策は困難と言わざるを得ません。
派遣社員を雇用して繁忙期のみ人手不足を解消する方法も模索されていますが、既存の従業員とは異なるため業務の進め方がわからないなどの支障が生じる可能性があります。スポット的に派遣社員を雇用する際には、派遣用のわかりやすいマニュアルを作成するなど別の対策が必要です。
勤務形態の見直しや省力化で人手不足を解決!
日本は政策として観光業に注力しており、インバウンド需要は経済を支える重要な要素の一つです。このような現状の中でホテル業界の役割は大きく、宿泊客と接する機会が多いという観点からやりがいを感じやすい仕事といえます。
しかしその一方で労働環境は厳しく、賃金・福利厚生面の改善や勤務形態・業務の見直しなどの抜本的な改革が必要です。
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